第14期マイナビオープン五番勝負は3-2のフルセットで西山朋佳女王の防衛となりました。
この防衛で4連覇となり、来期、防衛を積み重ねると林葉直子元女流王将(※)、清水市代女流七段、中井広恵女流六段、里見香奈女流四冠に続く女流史上5人目のクイーン(永世)称号獲得となります。
※1995年の日本将棋連盟退会により資格喪失
一方、挑戦者の伊藤沙恵女流三段はあと一歩のところでタイトル獲得を逃しました。
これでタイトル挑戦8連敗です。
自身が持つタイトル初挑戦からの連続敗退記録をさらに伸ばした形となりました。
しかし、過去にはタイトル失冠後に8回、9回と連続で挑戦敗退を経験した先人棋士たちもおり、その中には再びタイトルを獲得した棋士もいます。
ここでは負け続けても挑み続けた先人棋士たちの連続敗退の足跡を紹介していきます。
目次
タイトルが指の間からすり抜ける
一昨年、木村一基九段が7回目のタイトル挑戦で悲願のタイトル獲得となり、将棋ファンの涙を誘いました。
タイトル初挑戦からの6連続敗退は森下卓九段と並んで、棋士の中では最多記録です。
回数(※) | 棋士名 | ||||
6 | 森下卓 | 木村一基 | |||
5 | 二上達也 | 加藤一二三 | |||
4 | 花村元司 | 丸田祐三 | 有吉道夫 | 久保利明 | 豊島将之 |
(※)タイトル初挑戦からの連続敗退回数
なお、森下卓九段、花村元司九段、丸田祐三九段についてはタイトル経験はありません。
しかし、ここに取り上げた棋士はすべてA級在籍を経験している一流棋士ばかりです。
新手一生
タイトル失冠後、負の連鎖の穴から抜けられない棋士もいました。
「新手一生」を信条に独創的な手を放ってきた升田幸三実力制第四代名人は実に9回連続のタイトル挑戦敗退を経験しています。
タイトル名 | 結果 | 最終局 | 勝 | 負 |
第1期十段戦 | 挑戦敗退 | 1963/1/10 | 3 | 4 |
第22期名人戦 | 挑戦敗退 | 1963/6/7 | 1 | 4 |
第2期十段戦 | 挑戦敗退 | 1964/1/8 | 3 | 4 |
第3期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1964/2/7 | 1 | 3 |
第3期十段戦 | 挑戦敗退 | 1964/12/26 | 2 | 4 |
第6期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1965/7/23 | 2 | 3 |
第25期名人戦 | 挑戦敗退 | 1966/6/9 | 2 | 4 |
第27期名人戦 | 挑戦敗退 | 1968/5/8 | 0 | 4 |
第30期名人戦 | 挑戦敗退 | 1971/6/15 | 3 | 4 |
相手はすべて弟弟子でもあり永遠のライバルである大山康晴十五世名人。
9回中フルセットが4回もあり、あと一歩のところで涙を飲んでいます。
結局、9回連続挑戦敗退の後、タイトルが取れないまま引退となってしまいました。
世界一将棋の強い男
米長邦雄永世棋聖も初タイトルの棋聖を奪われた後、8回もの連続敗退を経験しています。
タイトル名 | 結果 | 最終局 | 勝 | 負 |
第23期王将戦 | 挑戦敗退 | 1974/3/12 | 2 | 4 |
第15期王位戦 | 挑戦敗退 | 1974/10/8 | 2 | 4 |
第25期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1975/1/10 | 0 | 3 |
第24期王将戦 | 挑戦敗退 | 1975/3/19 | 3 | 4 |
第35期名人戦 | 挑戦敗退 | 1976/6/11 | 3 | 4 |
第29期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1977/1/31 | 2 | 3 |
第18期王位戦 | 挑戦敗退 | 1977/10/5 | 2 | 4 |
第17期十段戦 | 挑戦敗退 | 1978/12/27 | 3 | 4 |
第4期棋王戦 | 奪取 | 1979/4/3 | 3 | 2 |
相手は中原誠十六世名人と大山康晴十五世名人の当時のツートップ。
こちらも8回中、4回ものフルセットの死闘を演じましたが、タイトルには手が届かずじまいでした。
しかし、8連続敗退後、棋王を獲得し、四冠王の達成、永世棋聖獲得、50歳名人を成し遂げています。
14年の時を経てエンジン全開
羽生善治九段の師匠である二上達也九段も長期にわたる連続敗退を経験しています。
タイトル名 | 結果 | 最終局 | 勝 | 負 | 持 |
第26期名人戦 | 挑戦敗退 | 1967/5/30 | 1 | 4 | |
第6期十段戦 | 挑戦敗退 | 1967/12/23 | 1 | 4 | 1 |
第19期王将戦 | 挑戦敗退 | 1970/3/5 | 1 | 4 | |
第19期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1972/1/21 | 1 | 3 | |
第26期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1975/7/17 | 1 | 3 | |
第26期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1976/1/10 | 0 | 3 | |
第33期棋聖戦 | 挑戦敗退 | 1979/1/22 | 1 | 3 | |
第37期棋聖戦 | 奪取 | 1981/1/28 | 3 | 1 |
初タイトル挑戦からの5連続敗退を皮切りに4連続敗退、7連続敗退を経験しています。
当時は大山康晴十五世名人の独壇場で中々牙城を崩すことができませんでした。
しかし、7連続敗退後、実に14年ぶりに棋聖を獲得し、その後3連覇を成し遂げることになります。
負け続けても立ち上がる
いかがだったでしょうか。
ここで紹介した棋士たちは1度ならずとも何度も挫折を繰り返し、その度に立ち上がって挑み続けた勇者たちです。
普通であれば挑戦失敗が何度も重ねれば、それにつれ自信喪失となり、挑戦者どころではありません。
しかし、彼らは白星を重ね、再び挑戦者となって、幾度となくチャンピオンにぶつかっていきました。
これは彼らが将棋に真剣にそして真摯に向かい合っていることに他なりません。
彼らのめげない姿は我々に挑戦する意義と数々の勇気を与えてくれます。
今回は残念な形となりましたが、これからの伊藤沙恵女流三段の奮起に期待しましょう。